マツダ自転車工場は「LEVEL」のブランドネームで知られる、オーダーメイドバイク工房の雄。
ケイリンのフレームビルダーとして数多くの勝ち星を獲得する傍ら、一般向けにもロードバイクのみならず、シティ車や障害を持つ方のための自転車なども積極的に手がけている。
オーナーであり、マスタービルダーである松田志行氏は僅かな温度や素材の違いを感じ取る職人的能力を獲得してるマイスターであるが、一方でいち早くオーダービルドの世界にCADを取り入れた先進性も併せ持っている。
工房兼お店は京成本線新三河島駅をおりて徒歩3分ほどの場所にある。
一見すると街の自転車屋さんのようにも思えるが、近くまで行けばショーウインドーに並ぶバイクたちが”本物”のオーラを放っているのがわかる。
この日は松田社長のセミナーも兼ねてのもので、オーダービルドに関するレアな情報をたくさん教えていただいた。
内容に関しては主に歴史に関することが多く、実用車メーカーとして出発したところから、ケイリンのフレームビルドを始めた話や、自転車界では初めて設計にCADを取り入れた話などを熱弁いただいた。
また、松田社長の師匠との話や、ケイリンにおけるシビアな要求をどうこなしていくか、など興味深い話題は尽きない。
なかでもトップ選手は年間10台以上も同じフレームを制作する、など知らなかったスポーツとしてのケイリンの裏側にも興味をそそられた。
とはいえ、やはり自転車好きの集団のため、一番の興味は実際の製作風景に集まる。
その意を汲み取り、すでに準備していてくれた松田社長に感謝だ。
工房に参加者を招き入れ、本当に目の前で実演を始めてくれた。
酸素バーナーの轟音と熱と光。
しかし松田社長が一度手にすると、それまでの荒々しさは姿を潜め、まるで魔法のタクトに変化する。
ラグとクロモリのパイプを接合する。
炎をあて、最善のタイミングで整形していく。
片手に持たれたペンチはまるで生き物のようだ。
すべては色と音。
もちろん傍目で理解できるはずもないが、松田社長が鉄と炎と語り合っていることだけはよく分かる。
工房での作業を一通り見せていただいたあとはLEVELブランドの自転車の試乗会を準備していてくれた。
試乗に夢中で写真を取り忘れてしまったのは痛恨だが、特に気に入ったのが街乗り用の「CITY LINER」。
特徴的な幅広のダウンチューブが特徴的だが、その乗り味は見た目に反してキビキビとしており、非常に漕ぎ出しが軽いしクルージングも楽だ。
松田社長いわく「見た目は街乗り用だけど、ジオメトリがスポーツ車用になっているので、楽に走れる」とのこと。
シティ車と考えれば12万円はなかなかの価格だが、気楽に乗れるスポーツ車と考えれば安く感じてしまう。
危うくその場でオーダーしそうになって我に返り反省。
自転車乗りの悪い癖だ。
最後は松田社長を囲んでの懇親会。
気さくなお人柄で、いろいろと面白い話を、皆で酒を酌み交わしつつ聞かせていただいた。
自転車乗りたちの笑い声は東尾久の夜空に吸い込まれていったのでした。
レポート:N地
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